003EX


「先輩って野球部のマネさんなんスかー?」
「えーだったら俺野球部入っちゃおうかなー」
「……ええと……」
 わらわらと集まって来た一年生男子集団に、何とも言えない曖昧な表情で言葉を濁す。
 助けを求める意味で海老原くんに視線を向ければ、それとなくすいっと視線を逸らされた。そりゃそうだ。ここで「実は彼女、ウチの部とは何の関係もないんです」とは言える筈もないから。
 分かっているとは言え、普段とてつもなく優しい海老原くんにツれなくされると精神的に来るものがある。
 しつこく携帯番号を聞いて来る男の子達をかわし、携帯番号の代わりに野球部のビラを押し付けた後。ひらひら手を振って去って行く後輩に、こちらも同じく手を振り返して背中を見送った。
 脱力。
 隣から海老原くんの感心したような声が聞こえる。
「四月一日、マジモテモテ。お陰で部員増えそうだわ、ありがとな」
「騙しちゃったみたいで心が痛い……バレた時は知らないからね?」
 それにしてもマネージャーが欲しかったんじゃなかったの? じとっとした目付きで背の高い海老原くんを睨めば、海老原くんは暫し考えた後に真顔で言った。
「今の奴らをマネージャーにしてみるの、どうかな?」
「……すぐ辞めると思う……」
 私のもっともな発言に、隣の海老原くんも苦笑った。

・四月一日 丙 わたぬき ひのえ/♀:モテる。
・海老原 えびはら/♂:優しい性格。でも野球部のためなら良心の呵責にも耐える。


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